解説4 本当にどんな「泥土」でも固めることができるか?

 昔、コンクリート工学の講義で、骨材は泥だらけだったり、粘土を含んでいてはいけないと、たっぷりと教わった私達は、泥状な土が固化材で本当に固まるものか、最初は半信半疑でした。しかし、有機物を含んだ汚泥さえも固めることができる、特殊なセメント系固化材が開発され始めていましたので、並みの泥ならば固められないことはなかろうと、実験してみて驚きました。
 普通の粘土ぽい土を解泥した泥土は、勿論のことでしたが、最初から極端な例を揚げますが、水道の浄水場から頂いた上水の汚泥、これは色の真っ黒な全く水のような泥水で、含水比(含まれる水分の重量と土の固体分の乾燥重量の比)が1000%をはるかに越えるような汚泥でしたが、高含水比土用のセメント系固化材を加えますと図−1に例を示したような圧縮強さを示して立派に固まりました。

 ですから粘性土に水を加えてよく攪拌して作った普通の泥土が、加える固化材量を加減すると、地山相当、あるいはそれ以上の圧縮強さに固まるのは当然でした。(図中のCは固化材のm3当たりの添加量「外割り」) 

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図−1


 しかし、試験の済んだ上水汚泥供試体を、室内に放置しておいて、自然に乾燥すると、当初のどす黒い色が失せて、驚くほど真っ白になりました。考えてみれば、この汚泥の中の固体分の占めた体積は0.1%にも達せず、残り総てが水分だったわけで、僅かな汚泥中の固体分と、相対的に多量な固化材と水によって構築された、繊維状に絡み合った多孔質な構造組織によって相応の強さの固体状を保っていたことになり、乾いた後の色の白さは、まさに量のはるかに多かった固化材の白さが際立ったわけでした。

 これ程ではなくとも、細かい土粒子を豊富に含んだ粘性土から作った泥水のみにセメント系固化材を混合し、狭い空間にも流し込み易い流動性を持たせますと、固まった処理土の比重(湿潤単位体積重量/水の単位体積重量)は1.2〜1.3程度なのが普通ですが、各成分の占める体積の割合を計算してみますと、8割強が水で占められる間隙であることが多く、実質的な固化材と土の固体分の占める体積の割合は、僅かに2割に足りません。

 しかし、これでも固まった流動化処理土の一軸圧縮強さは10Kgf/cm2(1MPa)程度ですから、それで造った構造体は、土の地盤としては相応の強さのしっかりしたもに思えてしまいます。

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図−2

 一方、一般土木用のコンクリートの例と比べてみますと、打設時のコンクリート中の固体分(粗骨材、際骨材、セメント)の体積率は8割、空隙(水分と空気間隙)率が2割程度と、この例では流動化処理土の割合とちょうど、図−2に示したように逆転しています。勿論、両者の強さの差は大変、大きいことは言うまでもありませんが、普通の地盤や盛土の比重は、超軟弱地盤で1.35程度、よく締め固めた盛土では1.6〜1.8はあるのが普通ですから、何か、流動化処理土のあまりに大きな間隙率が、かえって奇異に感じられ不安になります。泥土は確かに固まりましたが、これで「土」として本当に良いのでしょうか?